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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)63号 判決 1996年3月14日

名古屋市南区塩屋町6丁目1番地

原告

高広工業株式会社

同代表者代表取締役

菅沼武彦

同訴訟代理人弁理士

神戸典和

中島三千雄

池田治幸

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

野上智司

大橋康史

幸長保次郎

吉野日出夫

主文

特許庁が平成2年審判第12860号事件について平成6年2月1日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文同旨

2  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年5月14日、特許庁に対し、名称を「カム式自動工具交換装置」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和60年実用新案登録願第70823号)をしたが、平成2年4月25日、拒絶査定を受けたため、同年7月18日、審判を請求した。そこで、特許庁は、この請求を平成2年審判第12860号事件として審理し、平成4年4月17日、出願公告(平成4年実用新案出願公告第17312号)したが、平成5年9月21日、その後発見した理由による拒絶理由を通知した上、平成6年2月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月7日、原告に対し送達された。

2  本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)

ハウジング内に、互いに同軸にかつ一体的に回転可能に設けられ、回転駆動装置により回転させられる第1カム及び第2カムと、

それら第1カム及び第2カムの回転軸心と直角に立体交差する軸心のまわりに、回転可能かつ軸心方向に移動不能に前記ハウジングの第一外壁に支持された円筒状部材と、

その円筒状部材の前記ハウジング内に位置する部分と一体的に設けられ、前記第1カムの外周に形成されたカム部と常時係合して、第1カムの等速回転を円筒状部材の不等速回転に変換するローラギアと、

軸方向の中間部に環状係合部を備え、その環状係合部の片側において、前記円筒状部材及びローラギアの内側に、軸心方向に相対移動可能かつ相対回転不能に嵌合する一方、環状係合部の反対側において、前記ハウジングの前記第1外壁とは反対側の第2外壁に、回転可能かつ軸心方向に移動可能に支持されるとともに、ハウジング外に突出したアーム軸と、

そのアーム軸の突出端部から半径方向に互いに逆向きに延び出し、各先端部に、工具にその工具の半径方向から係合して、その工具を保持する工具保持部を有する一対の工具保持アームと、

前記ハウジングにより、前記第1及び第2カムの回転軸心と平行な回動軸心のまわりに、回動可能に支持されたレバーと、

そのレバーに設けられ、前記第2カムの端面に形成されたカム部と係合して、第2カムの回転運動をレバーの回動運動に変換するカムフォロワと、

前記レバーに設けられ、前記アーム軸の環状係合部に、その環状係合部の回転を許容しつつ軸心方向には一緒に移動する状態で係合し、レバーの回転運動をアーム軸の軸心方向の運動に変換する係合部と

を含み、前記第1カム及び第2カムのカム部の形状が、それら両カムの一方向の回転を、前記工具保持アームの前記工具に対する係合、離脱のための正逆両方向の回動及び工具搬送のための180度の回動と、工作機械及び工具保持装置に対する工具の挿入、抜出しのための軸心方向における正逆両方向の移動とにそれぞれ変換する形状とされたことを特徴とするカム式自動工具交換装置(別紙第1図面参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  これに対し、本件出願日前に日本国内及び外国において頒布された次の刊行物には、次に示す発明が記載されている。

ア 昭和58年特許出願公開第45836号公報(以下「引用例1」という。)

一対の工具交換腕が、工具に対する係合、離脱のための正逆両方向の回動、工具搬送のための180度の回動、工作機械及び工具保持装置に対する工具の挿入、抜出しのための軸心方向の移動をそれぞれ行うように、カム機構により駆動制御されてなるカム式自動工具交換装置。そこにおける一対の工具交換腕は、工具腕軸の突出端部から半径方向に向け、互いに逆方向に延び出すと共に、その各先端部に、工具に対し半径方向から係合してそれを保持するための工具保持部を有するものとされている(別紙第2図面参照)。

イ 西独国公開特許第1911696号明細書(以下「引用例2」という。)

以下のように構成されてなるカム式自動工具交換装置。

(ア) ハウジング内に、互いに同軸かつ一体的に回転可能に設けられ、回転駆動装置により回転させられる第1カム及び第2カムを設ける。

(イ) カムの回転軸心と直角に立体交差する軸心の周りに、円筒状部材を、ハウジングにより回転可能かつ軸心方向に移動不能に支持する。この円筒状部材については、歯車等を介して、第1カムの等速回転を円筒状部材の不等速回転に変換するよう第1カムに係合する。

(ウ) 工具保持アームの支持軸の軸方向中間部に環状係合部を設けるとともに、支持軸を、この環状係合部の一方側において、円筒状部材の内側に対し軸心方向に相対移動可能かつ相対回転不能に嵌合し、反対側において、ハウジングの壁に対し回転可能かつ軸心方向移動可能に支持させた上、ハウジングの外に突出させる。

(エ) 第1、第2カムの回転軸心と平行な回転軸心の回りに、レバーを、ハウジングにより回動可能に支持する。このレバーにおいては、第2カムの周面と係合して第2カムの回転運動をレバーの回転運動に変換するカムフォロアと、上記工具保持アーム支持軸における環状係合部の回転を許容しつつ、その軸心方向に一緒に移動する状態で上記環状係合部と係合する係合部とを備えており、これにより、レバーの回転運動を、工具保持(移送)アーム支持軸の軸心方向の運動に変換するように構成されている(別紙第3図面参照)。

ウ 米国特許第4036374号明細書(クラス214)(以下「引用例3」という。)

物品搬送手段に連結された円筒状部材に軸回りの回転運動を付与するため、軸と直交する面内に、軸を中心とした放射状をなすように延設された複数のカムフォロワが、回転カムの外周に形成されたカム部と係合して、カムの回転を円筒状部材の軸回り回転運動に変換するようにした伝動機構(別紙第4図面参照)

(3)  本願考案と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明における「工具腕軸」、「工具交換腕」が、それぞれ本願考案の「アーム軸」、「工具保持アーム」に相当するから、両者は、「アーム軸の突出端部から半径方向に互いに逆向きに伸び出し、各先端部に、工具にその工具の半径方向から係合して、その工具を保持する工具保持部を有する一対の工具保持アームが、該工具保持アームの工具に対する係合、離脱のための正逆両方向の回動及び工具搬送のための180度の回動と、工作機械及び工具保持装置に対する工具の挿入、抜出しのための軸心方向における正逆両方向の移動とを行うようにカム機構により駆動されることを特徴とするカム式自動工具交換装置」である点において一致するが、本願考案が以下の<1>ないし<7>の各構成を有するものとされているのに対し、引用例1にはそれらの記載がない点において相違する。

<1> ハウジング内に、互いに同軸にかつ一体的に回転可能に設けられ、回転駆動装置により回転させられる第1カム及び第2カム(以下「構成<1>」という。<2>以下についても同じ。)

<2> 第1カム及び第2カムの回転軸心と直角に立体交差する軸心の周りに、回転可能かつ軸心方向に移動不能に前記ハウジングの第1外壁に支持された円筒状部材

<3> その円筒状部材の前記ハウジング内に位置する部分と一体的に設けられ、前記第1カムの外周に形成されたカム部と常時係合して、第1カムの等速回転を円筒状部材の不等速回転に変換するローラギア

<4> 軸方向の中間部に環状係合部を備え、その環状係合部の片側において、前記円筒状部材及びローラギアの内側に、軸心方向に相対移動可能かつ相対回転不能に嵌合する一方、環状係合部の反対側において、前記ハウジングの前記第1外壁とは反対側の第2外壁に、回転可能かつ軸心方向に移動可能に支持されるとともに、ハウジング外に突出したアーム軸

<5> 前記ハウジングにより、前記第1及び第2カムの回転軸心と平行な回動軸心の周りに、回動可能に支持されたレバー

<6> そのレバーに設けられ、前記第2カムの端面に形成されたカム部と係合して、第2カムの回転運動をレバーの回動運動に変換するカムフォロワ

<7> 前記レバーに設けられ、前記アーム軸の環状係合部に、その環状係合部の回転を許容しつつ軸心方向に一緒に移動する状態で係合し、レバーの回転運動をアーム軸の軸心方向の運動に変換する係合部

(4)  上記の相違点について検討するに、

ア 引用例2記載の発明における「工具保持アームの支持軸」は本願考案の「アーム軸」に相当するから、

(ア) 構成<1><5><7>については、いずれも引用例2に記載されている。

(イ) 構成<2>のうち、円筒状部材がハウジングの「第1外壁」に支持されている点を除いた部分、

構成<3>のうち、第1カムの等速回転を円筒状部材の不等速回転に変換する機能、

構成<4>のうち、アーム軸がハウジングの第1外壁と反対側の「第2外壁」に支持されている点を除くその他の部分、

構成<6>のうち、レバーに設けられたカムフォロワが第2カムの「端面」に形成されたカム部と係合する点を除いた部分

についても、いずれも引用例2に記載されている。

(ウ) 引用例1、引用例2とも、カム式自動工具交換装置に関する発明であるから、引用例2に記載された(ア)、(イ)の諸構成を引用例1記載の発明に適用することには何らの困難性もみられない。

イ 引用例1、2に記載のない部分について検討すると、

(ア) 構成<2>のうち、円筒状部材をハウジングの「第1外壁」に支持する点については、引用例2記載の発明における円筒状部材も、アーム軸の一方の端部側(環状係合部を挟んで工具保持アームと反対側)においてハウジングにより支持されているところ、円筒状部材をハウジングのどの部位で支持するかは、ハウジング内の諸部材やハウジングの構造、形状等との関連で適宜選択すべき設計事項とみられるから、本願考案の如く円筒状部材を直接ハウジング第1外壁で支持するよう構成することは極めて容易である。

(イ) 構成<3>のうち、第1カムの等速回転を円筒状部材の不等速回転に変換するために、円筒状部材と一体に設けられたローラギヤを第1カムの外周に形成されたカム部と係合させる点は、引用例3に示されている(引用例3記載の発明における「軸と直交する面内に、軸を中心とした放射状をなすように延設された複数のカムフォロワ」が本願考案の「ローラギヤ」に相当することは明白である。)。引用例3記載の発明においては、ローラギヤがカム部と「常時」係合するものではないが、引用例2記載の発明における円筒状部材のような、軸方向移動不能かつ軸回り回転可能な部材に、引用例3記載の発明におけるローラギヤ機構を適用した場合には、当然にローラギヤがカム部と常時係合することになるものである。

(ウ) 構成<6>のうち、レバーに設けられたカムフォロワが第2カムの「端面」に形成されたカム部と係合する点については、端面を用いたカム係合機構が引用例1の別紙第2図面4図にも示されているように周知のものであるから、第2カムにこの機構を適用する点は設計事項にすぎないというべきである。

(5)  したがって、本願考案は、引用例1ないし3記載の発明に基づいて、当業者が極めて容易に考案することができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

「審決の理由の要点」(1)ないし(3)は認め、同(4)(5)は争う。

審決は、本願考案のうち「審決の理由の要点」(4)ア(ア)(イ)の構成を得るため、引用例1及び2記載の発明を組み合わせることの困難性について判断を誤るとともに、本願考案の構成<3>のうち、上記を除いた部分(円筒状部材のハウジング内に位置する部分と一体に設けられたローラギヤを第1カムの外周に形成されたカム部と係合させた部分)のため、引用例2及び3記載の発明を組み合わせることの困難性についても評価を誤り、本願考案が、引用例1ないし3記載の発明から極めて容易に考案することができたものと判断した点において違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  本願考案のうち「審決の理由の要点」(4)ア(ア)(イ)の構成のため、引用例1及び2記載の発明を組み合わせることについて

ア 審決は、引用例1及び2記載の発明が、ともに、カム式自動工具交換装置についてのものであるから、引用例2記載の発明における諸構成を引用例1記載の発明に適用することについて困難はないとするが、本願考案のため引用例1が示していることは、アーム軸及び工具保持アームに対し、本願考案と同じ工具交換運動をカム機構により与えるということのみである。しかしながら、引用例2記載の発明におけるカム機構は、アーム軸等に対し、本願考案と同じ工具交換運動を与えるものではない。

したがって、引用例2記載の発明におけるカム機構を引用例1記載の発明におけるカム機構の代わりに採用すれば、引用例1が本願考案に関して教えている唯一の点である「アーム軸及び工具保持アームに対し、本願考案と同じ工具交換運動をカム機構により与えること」が不可能になってしまう。

このような場合に、引用例2記載の発明を引用例1記載の発明と合わせて考えることが極めて容易であるとすることは妥当ではない。

イ 特に、引用例2記載の発明におけるカム機構は、本願考案における第1カム及び第2カムに対応する回転カム55及び移動カム41を、一方向のみに回転させ続けることができず、そのため、本願考案の工具保持アーム及びアーム軸にそれぞれ対応する工具移送アーム31及び軸34について、その回動及び軸方向の移動を、上記回転カム及び移動カムの一方向の回転運動から生じさせることができないものである。したがって、当業者が、引用例1記載の発明におけるカム機構を引用例2記載の発明におけるカム機構に置換することを考えるはずがない。

すなわち、引用例2記載の発明における回転カム55は、一部がとぎれ閉曲線を描いていない溝56においてローラ57と係合するため、往復回動させざるをえないものであり、このようなカム機構を引用例1記載の発明におけるカム式自動工具交換装置に適用することは、当業者において考えられないところである。

ウ また、引用例2記載の発明におけるカム式運動変換機構について、それを、カムの一方向回転により、引用例1記載の発明のものと同じ工具保持アームの運動を実現しえるものにするためには、回転カム55を一方向回転可能なものに変更することが必要であるところ、実際上、その変更は、回転カム55を大型化させるものであり、工具交換装置用として現実的なものではない。

エ 更に、たとえ、引用例2記載の発明における回転カム55のカム溝56を、閉曲線を描くものに変更したとしても、その場合には、工具保持アームにおける工具搬送のための180度の回動を、正方向の180度回動と逆方向の180度回動との交互の繰り返しにしなければならず(回転カム55が一回転したときに、カム溝の各部分が必ず元の位置に戻らなければならないからである。それに対して、本願考案のローラギヤと係合する第1カムにはその必要がない。)、引用例1記載の発明における工具交換腕及び本願考案における工具保持アームのように、正方向のみの180度回動の繰り返しとすることはできない。

オ 更にまた、引用例2記載の発明におけるカム式運動変換機構はレバー64及び円錐扇形歯車67を含んでおり、この点からも、同発明の工具保持アームに、引用例1記載の発明における工具交換腕及び本願考案における工具保持アームと同じ運動を与えることはできない。

すなわち、引用例1記載の発明における工具交換腕及び本願考案における工具保持アームは、「工具に対する係合、離脱のための正逆両方向の回動及び工具搬送のための180度の回動」(本願考案の実用新案登録請求の範囲についての記載)を行うものであるが、この180度の回動は、前記エのとおり、往復回動ではなく、一方向の回動である(工具交換腕及び工具保持アームは、原則的に、180度ずつ間欠的に一方向に回動して工具を搬送し、180度の回動1回について1回ずつ、工具に対する係合、離脱のための往復運動を行う。)。したがって、工具交換腕及び工具保持アームを保持している交換腕軸及びアーム軸は一方向に限りなく回転しえるものであることが必要であり、本願考案が採用しているローラギヤカム機構はこの要求を満たしえるものであるが、引用例2記載の発明におけるカム式運動変換機構は、レバー64及び円錐扇形歯車67を含んでいるために、仮に、回転カム55のカム溝を閉曲線を描くものに変更したとしても、上記要求を満たしえない。なぜならば、引用例2記載の発明における軸34は、円筒状部材(ブッシュ38)及び円錐歯車68を介して、円錐扇形歯車67と係合しているため、軸34を一方向に限りなく回転させるためには、円筒状部材、円錐歯車68、円錐扇形歯車67及びレバー64等を一方向にのみ回転させえることが必要であるが、レバー64は一方向にのみ回転させる構成とされておらず、また、円錐扇形歯車67も、一方向にのみ回転させれば円錐歯車68との噛み合いが外れてしまうため、往復運動させざるをえないからである。

以上のとおり、工具交換腕(工具保持アーム)を一方向に限りなく回転させえることを必要とする引用例1記載の発明と、構成上その要求を満たしえない引用例2記載の発明とを結び付ける要因は全くなく、このような両引用例を合わせて考えることが極めて容易であるとすることは妥当ではない。

カ 更に付言すれば、引用例1記載の発明における工具交換腕の工具搬送のための180度の回動は、高速運転を考える場合には、本願考案において得られる180度の回動と同じ運動とはいえない。

引用例1記載の発明においては、上記の180度の回動を得るために、マルタ車作動ローラ54付きの第1カム部材49とマルタ車57とからなるいわゆるゼネバ機構が使用されている(同発明においては、ゼネバ機構をカム機構として扱っているが、ゼネバ機構は、一般的には、歯車機構の一種として扱われているものである。)が、ゼネバ機構は、回転加速度を任意に変更することができないものであり、また、ゼネバ機構を使用した装置は、振動、騒音が発生しやすく、高速運転に適さないものである。それに対して、本願考案において採用されている第1カムとローラギヤは、第1カムの形状を変更することにより、ローラギヤの回転加速度等を任意に変更することができ、高速運転に耐えうる工具交換装置をもたらすものである。

キ 以上のとおりであるから、審決が、本願考案について、引用例1及び2記載の発明から極めて容易に考案することができると判断したことは誤りである。

(2)  本願考案の構成<3>のうち、円筒状部材のハウジング内に位置する部分と一体に設けられたローラギヤを、第1カムの外周に形成されたカム部と係合させた部分のため、引用例2及び3記載の発明を組み合わせることの困難性について

ア この点についての審決の判断は、引用例2と3のカム機構を組み合わせることにより、引用例1に記載のない上記部分を考案することが極めて容易であるとすることに基づくものである。

イ しかしながら、引用例2に示唆されていることは、ハウジングにおいて、円筒状部材を回転可能かつ軸心方向に移動不能に支持し、その円筒状部材に対し、アーム軸を軸心方向に移動可能かつ相対回転不能に嵌合した上、カム機構を介して円筒状部材を回転させ、そのことによってアーム軸を回転させることである。そして、そこにおいては、本願考案の構成<3>のように、円筒状部材のハウジングにより支持されている部分からカム機構側にある部分を駆動すること及びカム機構をローラギヤと第1カムとの組合わせとすることまでは示唆されていない。

一方、引用例3において示唆されていることは、アーム軸を回転させるカム機構について、ローラギヤと第1カムとの組合わせとすることであり、そこにおいては、ローラギヤを、ハウジングにより回転可能かつ軸心方向に移動不能に支持された円筒状部材と一体的に設け、その円筒状部材に、アーム軸を軸心方向に移動可能かつ相対回転不能に嵌合することによって、アーム軸を回転させることまでは示唆されていない。そのため、本願考案の構成とするためには、単に、引用例2記載の発明に対し、引用例3記載の発明におけるカム機構を適用するだけではなく、アーム軸と円筒状部材の置換まで一緒に考えなければならない。

したがって、両引用例の示唆を合わせても、円筒状部材のハウジング内に位置する部分(円筒状部材のハウジングにより支持されている部分からカム機構側にある部分)と一体的にローラギヤを設けるという本願考案の構成に到達することは、極めて容易であるとすることはできない。

特に、引用例2記載の発明においては、円筒状部材のうち、ハウジングに支持されている部分の反対側部分(カム機構とは反対側の部分)が駆動されるようになっているため、引用例2記載の発明におけるカム機構を、単純にローラギヤと第1カムとの組合わせに置換することはできず、円筒状部材のカム機構により駆動される部分を、引用例2記載の発明における場合とは逆にしなければならないのであり、このようなことは極めて容易になしえることではない。

ウ その上、引用例2記載の発明におけるカム機構と引用例3記載の発明におけるカム機構とは、上記のとおり構成が異なるのみならず、作用も異なるため、両者を置換することは一層困難である。

すなわち、引用例2記載の発明における回転カム55は、本願考案における第1カムに相当するものであるが、その構造(溝56の一部が切れている。)上、正逆両方向に回転させざるをえないため、同発明における工具保持アームの支持軸34の回転については、引用例3記載の発明における割り出しカム11のような一方向の回転カムの回転を変換して、本願考案におけるものと同様の回転運動とすることはできないのである。

エ このように、引用例2及び3記載の発明におけるカム機構の置換について、上記引用例に特にそれを示唆する記載もないのに、置換が極めて容易であるとすることは妥当ではない。

以上のとおりであるから、審決には、本願考案の構成<3>について、引用例1記載の発明との相違点に関する判断を誤った違法がある。

第3  請求の原因の認否及び被告の反論

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。

同4は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2  取消事由についての被告の反論

(1)  本願考案のうち「審決の理由の要点」(4)ア(ア)(イ)の構成のため、引用例1及び2記載の発明を組み合わせることについて

ア まず、原告は、引用例2記載の発明におけるカム機構が、アーム軸等に対し本願考案と同じ工具交換運動を与えるものではないから、引用例1記載の発明におけるカム機構に代えて引用例2記載の発明におけるカム機構を採用するならば、アーム軸及び工具保持アームに対し、カム機構により本願考案と同じ工具交換運動を与えることが不可能になると主張する(審決を取り消すべき事由(1)ア)。

しかしながら、この主張は、引用例1記載の発明におけるカム機構をそっくり引用例2記載の発明におけるカム機構に置き換えることを前提とするものであるが、審決は、それが可能であるといっているものではない。審決は、本願考案におけるものと同じカムの一方向回転によって得られる工具保持アームの運動が、引用例1に記載されていると認識し、この運動を実現すべき個々の具体的カム機構等が引用例2及び3に記載されているとしているのである。

一般的にいって、発明ないし考案の組合わせの容易性は、組み合わされるものの側が、その内容として、例えば、本願考案の示唆、課題や機能、作用の共通性、技術分野の関連性等、本願考案に対して起因あるいは契機となるものを含むかどうかにより判断されるべきものである。そして、引用例2記載の発明は、「公知の装置に比べて、極めて簡単な構成を持つ工具の移送装置を製造する」(乙第2号証1頁16行ないし2頁1行)との本願考案と同様の目的、課題を有し、また、一体回転する第1及び第2カムの回転運動から、円筒状部材の回転運動及び円筒状部材中に嵌挿されたアーム軸の軸方向運動を取り出すという、本願考案におけるカム機構と共通の機能や作用を営むものでもある。

したがって、引用例2記載の発明を引用例1記載の発明に組み合わせることは、当業者にとって極めて容易というべきであり、原告の主張は失当である。

イ 原告は、引用例2記載の発明における回転カムのカム溝が閉曲線を描いていないことから、上記カムを往復回転させざるをえないとして、カムの一方向回転のみで十分な引用例1記載の発明に、引用例2記載の発明のカムを組み合わせるということは考えられないと主張する(審決を取り消すべき事由(1)イ)。

しかしながら、確かに、引用例2記載の発明における回転カムは往復回転型のものであるが、他方、回転カムの本体端面にカム溝を形成し、このカム溝が連続閉曲線を描くものであって、一方向回転運動の下での使用を予定したものは周知である(乙第1号証参照)。言い換えると、引用例2に示されるような、本体端面にカム溝を形成したカムを、カム溝の設計を変えることにより、往復回転型カムないしは一方向回転型カムのいずれとしても使用することができるということは、当業者がよく認識していることといえるのである。そして、往復回転型カムと一方向回転型カムのどちらを採るかは、当業者が設計上の諸条件を勘案して適宜選択できることである。加えて、前記のとおり、引用例2には、同記載の発明は、従来の装置に比して極めて簡単な構成とすることができる旨が記載されている。

これらのことを総合勘案すれば、装置構成の簡易化を図る等の目的のため、引用例1記載の発明におけるカム機構に代えて、引用例2記載の発明におけるカム機構を採用し、その際、第1及び第2カムの回転運動を一方向のものとすることは、当業者が極めて容易になしえることというべきである。

ウ また、原告は、引用例2記載の発明のカム溝の形状を変えても、引用例1記載の発明における工具交換腕の運動と同じ運動は得られず、また、引用例2記載の発明におけるカム式運動変換機構は、レバー及び円錐扇形歯車を含むたあに、引用例1記載の発明と同じ工具保持アームの運動を生じさせることはできないと主張する(審決を取り消すべき事由(1)エ、オ)。

しかしながら、審決は、引用例2記載の発明におけるカム溝やカム式運動変換機構を用いることによって、本願考案における工具保持アームの回転運動が得られるといっているのではない。

すなわち、審決においては、「構成<3>のうち、第1カムの等速回転を円筒状部材の不等速回転に変換する機能」は引用例2に記載されているとし、記載がないそれ以外の構成については、「第1カムの等速回転を円筒状部材の不等速回転に変換するために、円筒状部材と一体に設けられたローラギヤを第1カムの外周に形成されたカム部と係合させる点は、引用例3に記載されている」と述べているのである。原告の上記主張は、このような審決の記載に対応したものではなく、失当である。

エ なお、原告は、引用例1記載の発明においては、工具交換腕の回転運動を得るカム機構の一部にゼネバ機構が用いられているが、ゼネバ機構はカム機構ではなく、引用例1記載の発明における工具交換腕の運動は、本願考案における工具保持アームの運動と同じではないと主張する(審決を取り消すべき事由(1)カ)。

しかしながら、引用例1において、工具保持アームの回転運動を得る機構として、カム機構が明示されていることは明らかである(引用例1記載の発明における特許請求の範囲第1項、1頁右下欄3行ないし5行)。

したがって、この点において、本願考案と引用例1記載の発明との間には相違がないのであって、原告の上記主張は失当である。

(2)  本願考案の構成<3>のうち、円筒状部材のハウジング内に位置する部分と一体に設けられたローラギヤを第1カムの外周に形成されたカム部と係合させた部分のため、引用例2及び3記載の発明を組み合わせることの困難性について

ア 原告は、引用例2及び3の記載における示唆を合わせても、円筒状部材のハウジング内に位置する部分と一体的にローラギヤを設けるという構成には到達することができないとする。

しかしながら、審決においては、「円筒状部材と一体に設けられたローラギヤを第1カムの外周に形成されたカム部と係合させる点は、引用例3に示されている」としており、また、この「円筒状部材と一体」とは、引用例3の別紙第4図面6図を参酌するならば、「円筒状部材のハウジング内に位置する部分と一体」の意味にほかならないことが明らかである。そのため、引用例3記載の発明における円筒状部材の駆動カム機構を引用例2記載の発明における円筒状部材の駆動カム機構に代えて用いるならば、上記構成が得られるのである。

また、引用例2記載の発明における円筒状部材に必要とされる動きは、単に軸回りの回転運動のみであり、このような円筒状部材の軸回りの回転運動の実現手段としてローラギヤとカムとを組み合わせたカム機構が引用例3記載の発明に示されているのであるから、これを引用例2記載の発明における円筒状部材の回転機構に代えて用いる点には何らの困難性もないというべきである。

イ 更に、原告は、引用例2記載の発明における円筒状部材の回転駆動力がカム機構とは反対側の部分において伝わるようになっているため、引用例2記載の発明におけるカム機構を単純にローラギヤと第1カムとの組み合わせに置換できないと主張する。

しかしながら、カム機構を設計する際考慮すべきことは、それによりどのような動きを実現したいのかということである。

このことを、引用例2記載の発明における円筒状部材の駆動について当てはめてみると、引用例2記載の発明において円筒状部材が必要とする動きは、軸回りの回転運動である。この動きが得られるカムであれば、途中の動力伝達機構の構成等は特に問題とはならない。そして、引用例3記載の発明には、円筒状部材の回転運動をローラギヤとカムとの組み合わせによって実現するものが示されているのであるから、引用例3記載の発明におけるカム機構を引用例2記載の発明に適用することには何らの困難性もない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、引用例1ないし3の各記載内容並びに本願考案と引用例1記載の発明との一致点及び相違点についても当事者間に争いがない。

第2  本願考案の概要について

成立に争いのない甲第2号証の1(本願考案についての平成4年実用新案出願公告第17312号公報)、同号証の2(本願考案についての平成5年1月25日付け手続補正書)及び同号証の3(本願考案についての同年11月9日付け手続補正書)によれば、本願考案の概要は以下のとおりである。

1  本願考案は、自動工具交換装置、特に、工作機械の主軸等の工具保持部と工具マガジン等の工具保持装置との間において回転切削工具の交換を行う装置に関するものである(同公報2欄18行ないし同欄21行)。

2  従来、この種の自動工具交換装置には、<1>工作機械の主軸の軸心と、回転切削工具の軸心(工具マガジン等の工具保持装置によって、上記工作機械の主軸の軸心と平行な姿勢に保持されたもの)とを結ぶ線分の中点を通り、上記工作機械の主軸の軸心と平行な軸心の回りに回転可能に設けられたアーム軸と、<2>そのアーム軸から、その半径方向に互いに逆向きに延び出す一対のアームであって、上記工作機械の主軸に取り付けられた回転切削工具と、上記工具保持装置に保持された回転切削工具とに対し、それらの軸心にほぼ直角な方向から係合して、それらを保持する工具保持アームとを備えたものがあった。この装置においては、工具保持アームのアーム軸の軸心方向に対する正逆両方向の移動と、アーム軸の軸心の回りに対する正逆両方向の回動との組合わせにより、上記工作機械の主軸から回転切削工具を取り外して上記工具保持装置に戻すのと同時に、同装置から別の回転切削工具を取り出して工作機械の主軸に取り付けるのである。このような自動工具交換装置における工具保持アームの回動、すなわちアーム軸の回転は、従来ゼネバ機構を介して油圧モータにより行われるなど、油圧装置によってなされるのが普通であった(同公報2欄23行ないし3欄18行)。

しかしながら、アーム軸を正逆両方向に回転させるためには、油圧モータの回転方向の切替えを行うことが必要であり、その切換え時期の検出や切換え操作を行うために、制御装置が複雑となり、装置コストが高くなる上、切換えに要する時間分だけサイクルタイムが長くなり、作業能率が低下するという問題があった(同公報3欄20行ないし同欄26行)。

3  本願考案は、このような問題を解決するため、要旨記載の構成を採用したものである(同公報3欄28行ないし4欄20行、平成5年1月25日付け手続補正書2頁4行ないし末行、同年11月9日付け手続補正書2頁4行ないし17行、同別紙1頁3行ないし3頁末行)。

本願考案の1実施例を別紙第2図面に基づいて説明するならば次のとおりである。

電動モータ76により、ウォーム74を介して、ウォームホイール68(第2カム)が回転し、それにより、その同軸54に固定されたカム(第1カム)52も回転する。カム(第1カム)52がローラギヤ51の各ローラ50に係合しているため、カム(第1カム)52の回転に合わせて、ローラギヤ51と一体的に設けられた円筒状部材26も不等速に回転し、それによりアーム軸12が回転する。アーム軸12の下方先端部には工具保持アーム36が設けられており、同アームの両先端において工具を係合、保持する。第1カムと第2カムの軸54と平行な軸64の回りにレバー60を設け、第2カムの端面にカム溝70を形成し、同カム溝とレバー60をローラ66(カムフォロワ)により係合した上、レバー60をアーム軸12の中間部に設けられた環状係合部(フランジ部56、環状溝58)に係合する。それにより、アーム軸12を軸心方向にも運動させることができることになる。

カム52の形状は、それが1回転するとき、工具保持アーム36に対し、その待機位置から正方向に90度回動して、工作機械の主軸及び工具保持装置に保持されている回転切削工具14、16に係合し、それらを抜き取った後、更に正方向に180度回動し、回転切削工具14、16を工具保持装置及び工作機械の主軸に挿入した後、逆方向に90度回動して待機位置に戻る運動を与える形状とされている。また、カム溝70の形状は、このような工具保持アーム36の運動のうち、回転切削工具14、16に対する、工作機械の主軸及び工具保持装置から下方への抜取り並びにそれらへの挿入の運動を生じさせるものとされている(同公報6欄31行ないし12欄30行、平成5年11月9日付け手続補正書2頁18行ないし3頁3行)。

4  本願考案の構成において、工具交換装置をカム式にしたことにより、工具保持アームに対し、カムを一方向に回転させることのみによって工具交換に必要な正逆両方向の回動運動と、軸心方向への前後運動とを与えることができるようになり、また、従来のように、アーム軸の回転方向を変える際、油圧モータの回転方向を切り換えたり、その切換え時期を検出したりする必要がなくなったため、制御装置の構成が簡単なもので済み、装置コストを低減させることができるようになったほか、油圧モータの切替えを行わずに済む分だけサイクルタイムを短縮することができ、作業能率を向上させるという作用効果が得られる(同公報4欄22行ないし同欄32行)。

また、ハウジング内に、第1カムと第2カムとを同軸に設け、その一体的な回転を可能にするとともに、アーム軸の軸心方向の中間部に設けた環状係合部においてレバーを係合させ、環状係合部の両側においてアーム軸をハウジングに支持させることにより、工具交換装置を小型化することができるという作用効果も得られる(同公報4欄33行ないし同欄43行)。

更に、ハウジングに、円筒状部材を回転可能かつ軸方向に移動不能に支持させ、その円筒状部材と一体的にローラギヤを設けるとともに、円筒状部材の内側に、アーム軸を軸心方向に相対移動可能かつ相対回転不能に嵌合させることによって、ローラギヤを環状係合部の近傍に配置することができることとなり、構造を簡易化するという作用効果も得られる(同公報5欄36行ないし6欄2行)。

第3  審決取消事由について

そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  本願考案のうち「審決の理由の要点」(4)ア(ア)(イ)の構成のため、引用例1及び2記載の発明を組み合わせることについて

(1)  本願考案及び引用例1、2記載の各発明は、ともに、カム式工具交換装置に関するものである点において共通し、また、引用例1記載の発明は、本願考案と同様の工具交換運動(工具に対する係合、離脱のための正逆両方向の回動、工具搬送のための180度の回動、工具の挿入、抜出しのための軸心方向に対する正逆両方向の移動)を実現する一方、引用例2記載の発明は、二つのカムを同軸に設け、それを一体的に回転させる機構を備える点において本願考案と共通するものである(前記第1における争いのない事実)。

(2)  しかしながら、成立に争いのない甲第3号証(引用例1)によると、引用例1には、次のとおり記載されていることが認められる。

「主軸および交換軸腕に平行な1本のカム軸を有し、このカム軸に前述したような正回転運動および逆回転運動を起させるための第1カム要素、前述したような前進運動および後退運動を起させるための第2カム要素並びに前述の180°回転運動を起させるための第3カム要素が取付けられ、カム軸の回転によつてこれら運動が所定の順序で行なわれることを特徴とする。」(2頁左下欄7行ないし14行)

「この時点からカム軸47が1回転する。(略)この回転にともなつて最初に第1カム要素すなわち第1溝カム66の作用で(第6図にAで示す)工具交換腕36が約90°回転し、(略)これに引続いて第2カム要素すなわち第2溝カム70の作用で(第6図にCで示す)工具交換腕36が第7c図および第7C図に図示されるように前進する。(略)その後に第6図にDで示されかつ第7d図および第7D図に示されるように第3カム要素すなわちマルタ車作動ローラ54およびマルタ車57の作用で工具交換腕36が180°回転し(略)その後に第2溝カム70の作用で工具交換腕36が後退し(略)その後に第1溝カム66の作用でカムてこ67のローラ68が第1溝カム66の溝が最も落ち込んだ箇所にはまり込んで工具交換腕36が水平位置まで約90°回転し、以後次の交換動作までこの状態を保持している。(略)上述の交換作動はカム軸47の1回転の間に行なわれ、(略)」(5頁右上欄20行ないし6頁左上欄15行)

他方、成立に争いのない甲第4号証(引用例2)中においては、引用例2記載の発明におけるカム機構及びそれに基づく工具交換運動に関し、次のとおり記載されていることが認められる。

「移送把持具を支持している軸34の回動運動は、回転カム55(図6及び図8も参照)、レバー59、リンク63、レバー64及び円錐扇形歯車67によって生じさせられる。回転カム55は、それの溝56に嵌入するとともに軸58に支持されたローラ57による伝動を介して、軸34の回動運動を生じさせる。レバー59は、一端が軸58と固定され、他端が、主軸台6に固定の軸62の回りに回動可能である。リンク63は、一端が軸58に連結されている。そのリンク63の他端に、レバー64の一端が軸65により連結される一方、レバー64の他端が、主軸台6により支持されて軸34の軸線と垂直な方向を有する軸66の回りに回動可能である。円錐扇形歯車67はレバー64に固定であり、対応する円錐歯車68と噛み合わされている。円錐歯車68は内周面に溝が形成されたブッシュ38と固定であり、そのブッシュ38内を軸34の対応する端部が摺動する。

回転カム55は、複数本のボルト71と、少なくとも1本の位置決めピン72(図3及び図6)とによって、ブッシュ73の小径端部に固定されている。そのブッシュ73は、例えばニードルベアリング74、75の助けを借りて、基部77を備えた軸76によって回転可能に支持されており、その軸76の基部77は主軸台の一部にボルト79により固定されている。」(5頁1行ないし24行、図3、6及び8は別紙第3図面に示す。)

「両カム41、55は調和している。すなわち、それらの形状は、運動の滑らかさを生じさせるように正弦的に形成されている。また、それらの往復運動範囲は、360度より小さくなるように、例えば、少なくとも溝カム55に関しては両端にそれぞれ約10度の遊びを有して、300度程度となるようにされている。

軸89は、その軸89に継手92により連結されているモータ91(図2)によって、一方向にあるいは他方向に回転させられる。カム41及び55の回動運動は、カム55に支持されたドグ96、97によって作動させられ、モータ91の駆動回路に設けられている二つのエンドスイッチ94、95(図3)によって制限される。」(5頁34行ないし6頁10行、図2及び3は別紙第3図面に示す。)

(3)  前記(2)認定の記載事項によれば、引用例1記載の発明における工具腕軸37(本願考案のアーム軸に相当するもの)の前記(1)の運動は、カム軸47が一方向に回転するのに伴い、第1カム要素(第1溝カム66)、第2カム要素(第2溝カム70)、第3カム要素(マルタ車作動ローラ54、マルタ車57)がそれぞれ作用することにより生じるものであることが認められ、引用例1記載の発明においては、本願考案と同様に、カム軸47の一方向の回転のみによって、前記(1)のとおり本願考案と同様の工具腕軸37の運動が生じることが明らかである(ただし、そのカム機構については、3要素のカムを要する点において本願考案と異なる。)。

これに対し、引用例2記載の発明における工具保持アームの支持軸34の回転運動は、軸76の回転に伴う回転カム55の回転により生じるものではあるが、カム軸及び回転カムの回転自体は、同一方向に連続するものではなく、回転カム55の端面に一部跡切れて形成されたカム溝56の形状に従い、300度程度の角度による円弧状の往復運動を示すものであることが明らかである。そうしてみると、本願考案ないし引用例1記載の発明と、引用例2記載の発明とは、そのカム機構の基本的な構成を大幅に異にするものというべきである。

また、引用例2記載の発明において、仮に、回転カム55のカム溝56の両端をつなぎ、カム溝を閉曲線の形状に変え、回転カムを一方向回転が可能なものに変更したとしても、同発明におけるローラ57、レバー64、円錐扇形歯車67、円錐歯車68等の作動内容に照らすならば、そのことにより、直ちに、同発明における工具保持アームの支持軸34の動きが、本願考案ないし引用例1記載の発明におけるアーム軸ないし交換腕軸の動きと同様のものになる訳ではないことも明らかである。

(4)  更に、前記第2における本願考案の概要からみるならば、本願考案は、アーム軸12を正逆両方向に回転させるにあたって、従来例における油圧モータの回転方向を切り換える構成とすることから生じる問題点を解決するために、2種類のカム(第1カム52、第2カム68)を設け、それらのカム軸54を一方向に一体回転させることにより、アーム軸の正逆両方向の回転運動等を実現させ、上記モータの回転方向の切替えを要しないとする構成を採用したものであることが認められる。

一方、引用例2記載の発明における回転カム55は、前記(2)のとおり、モータ91の回転方向の切替えにより往復回転運動に及んでいることが明らかであるから、同発明におけるカム機構は、本願考案における前記のような技術的課題を解決するための構成を示すものではないというべきであり、結局、両者はその技術的課題を異にするものといわざるをえない。

(5)  以上のような、本願考案と引用例2記載の発明との間における構成の相違及び技術的課題の相違の点を考慮するならば、前記のとおり両者がともにカム式工具交換装置に関する発明である点において共通するとしても、本願考案と同様の工具交換運動を実現するために、引用例1記載の発明のカム機構に代えて、引用例2記載の発明のカム機構を組み合わせることが当業者にとって極めて容易なことであるとすることはできないというべきである。

(6)  これに対し、被告は、引用例2記載の発明は簡単な構成による工具の移送装置を実現するという、本願考案と同様の目的、課題を有するとともに、同発明は一体回転する二つのカムの回転運動から、工具保持アームの支持軸の回転運動及び軸方向の前後運動を取り出すという、本願考案におけるカム機構と共通の機能や作用を有するものであることから、本願考案の構成のため、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み合わせることは当業者にとって極めて容易というべきである旨を主張する。

しかしながら、前記判示のとおりの本願考案と引用例2記載の発明の内容及び技術的課題等に照らすならば、被告の主張する上記目的、課題ないしは機能、作用の点を考慮しても、引用例1、2記載の発明の組合わせが当業者にとって極あて容易であるとみなすことは困難である。

更に、被告は、本体端面に、連続した閉曲線によるカム溝を形成した回転カムを一方向の回転運動に使用することは周知の技術であるとした上、当業者において、本体端面にカム溝を形成したカムを、カム溝の設計を変えることにより、往復回転カム、もしくは一方向回転カムのいずれとして用いることも容易であると主張する。

成立に争いのない乙第1号証(「技能ブックス(17)機械要素のハンドブック」株式会社大河出版昭和52年5月20日発行、116頁)における記載に鑑みるならば、本体端面に閉曲線によるカム溝を形成したカムは、当業者にとって周知のものであることが窺われるところである。

しかしながら、前記乙第1号証によれば、そこに示されているカム溝を有するカムの作用そのものは、一方向の回転運動を直線の往復運動に変えるもののみであり、本願考案におけるような複雑な回転運動、前後の移動運動を生じさせるものではないことが認められ、また、本件において、本体端面に、本願考案における工具交換運動を生じさせるようなカム溝を備えたカムまでが周知のものであることを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告の上記主張の事由をもって、本件における引用例1及び2記載の発明の組合わせが当業者にとって極めて容易であると認めることはできない。

2  そうすると、本願考案における請求の原因3「審決の理由の要点」(4)ア(ア)(イ)の構成について、当業者が引用例1及び2記載の発明に基づいて極めて容易に考案することができたとする審決の認定判断は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

したがって、原告のその余の取消事由について判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れないものというべきである。

第4  よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙第1図面

<省略>

別紙第2図面

<省略>

<省略>

別紙第3図面

<省略>

別紙第4図面

<省略>

<省略>

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